「それではこうしない?」
「私も聞かれたことは、正直に話すから、皆さんも正直に話してくれるかな?」
このような提案をしたら、4人とも少し目を合わせる瞬間が有り、一人の社員が、意を決したように、話し始めました。
「分かりました。私たちも正直にお話しますから、質問には正直に答えて下さい。」
「了解!」
「まずは私から、誰から何を頼まれたの?」
「上司から、退職後に何をするのか、引き抜きじゃないのかの2点を聞いてきて欲しいとお願いされました」
「そうか。『退職後は全国の温泉巡り、引き抜きではないから再就職は無い』が答えだよ」
「エッ!本当ですか?」
「そう、正直に話すと約束したろ。(スマホを見せて)この通り、旅館の予約を入れているだろ」
「温泉巡りが好きなのは知っていましたけど、まったく仕事をしないというのは想像していませんでした」
「そんなに不思議なことかな~。笑」
「他社からお声がかかったことがありますよね?」
「有るよ。でもどうして知ってるの?」
「上司から聞きました。転職しなかった理由は、待遇面ですか?」
「その転職の話も、ある人からの紹介で、断りづらく、やむなく話を聞いただけで、最初から転職の意思はなかったよ。だから、待遇面では無いな。」
「待遇面でなかったら、転職しなかった理由は?」
「最初に話したように、温泉巡りをするためで、もう働く気はないからさ」
「そのお言葉、信じてもいいですか?」
「もちろん、ここで嘘をついては、男が廃る」
「ありがとうございました。そのように報告します。申し訳ございませんでした」
「いえ、いえ、最初からおかしいと思っていたけど、引き留め工作ではないことが分かったから、一安心だよ。もし、それが目的だったら、皆さんも引き留められなくて申し訳ないことをしたと私も気まずい思いをしたからね~」
「実は、私もそのまま退職するとは思っていない一人です。上司から聞いた話では、来期の営業部門の責任者クラス候補が見当たらないと言っていました。」
「そんなの今の肩書にこだわらず、40代の若手を登用すればいいんだよ。地位が人を作るというからね。」
「出世には興味ないんですか?」
「無いな~。即答だよ。この話は、ここで終わりにして、お食事にしましょう。私も理由はともあれ、こんな美人さんに囲まれて食事が出来るなんて、棚ボタだな~。でも、美人さんに詰められたらボロボロ話すと思われているのも何か癪だけど~。笑」
「いえいえ、上司から〇〇さんが退職すると聞いて、対応に困っている、本当は何が原因か分からないと言っていたのを聞いて、私たちから一席設けて聞いてみましょうかと話したことがきっかけです。」
「そうなの。まあ、そうだと素直に受け取っておくよ。笑」